花京院家の愛玩人形
「不調が出たのか?」
鋭い口調で言った要は、許可も待たずに素早く部屋に上がって窓を閉めた。
弱々しい制止の声が耳に入るが、気にも留めず大股でベッドに近寄り…
見つけてしまう。
散らばった本に紛れて転がる、股関節から強引に外された白く細い右足を…
「君の『婚約者』がやったの?」
ボソボソなんてモンじゃない。
低く、低く。
地を這うような呻きが、もぎ取られた『紫乃』のパーツを凝視する要の唇から漏れた。
シーツが微かに衣擦れの音を立てる。
「わたくしが花京院様にお会いしていることが露見し、信太郎さんの不興を買ったのでございます。
彼はきっと、花京院様にも酷いことを…
後生ですから、早くお帰りになって。
そしてもう二度と、この部屋にいらしてはなりません」
「そう。
あの、駆除対象の有害クソゲスDV中年がやったの」
ディスりすぎ…
だがこれは、激しく同意と言わざるを得ない。
なのに…
「彼をそんな風に仰らないでくださいまし。
わたくしがいけなかったのです。
信太郎さんのいいつけに従わず、花京院様のご厚意に甘えて…
全てはわたくしの過ち故の罰なのですわ」
強引に部屋に通い続けた男ではなく。
彼女を傷つけた男でもなく。
自らを責めた紫乃は、シーツを震わせて啜り泣いた。