花京院家の愛玩人形
あぁ… まただ。
胸が痛む。
泣きたくなるほど胸が痛む。
「ココから出たい?」
痛みを堪えるように眉根を寄せ、シャツの胸元を片手でギュっと掴んだ要は、以前にも紫乃に投げかけた問いを繰り返した。
「わたくしのことはよいのです。
花京院様こそ、信太郎さんが戻る前に、早くココからお出でになって」
「君は、ココから出たい?」
「わたくしは…
いいえ、わたくしは信太郎さんとココにおります。
ドコにも行きません。
外に出たいなどとは、金輪際望みません」
さらに細かく震えるシーツ。
さらに細かく震える声。
「…たとえ望んだとしても、もうこのような身体では」
「元通りに出来る」
もはや吐息と化した絶望的な囁きを、要は遮った。
シーツがそっと持ち上がり、涙に濡れた愛らしい顔がヒョコっと出てくる。
けれどもまたすぐ、モゾモゾと引っ込む。
不謹慎で申し訳ないが、言わせてもらおう。
可愛いな。
「ふふ、慰めなら不要ですのよ、花京院様。
どんなに優秀なお医者様でも、失われた四肢を元通りになんて出来ないことは、いくらわたくしが世間知らずでも存じておりますわ」
紫乃はシーツの中から乾いた笑い声を上げた。