花京院家の愛玩人形
硬い表情で。
自らの足を凝視したまま。
ずいぶん長い間黙っていた紫乃だったが…
やがて細い両腕を支えに、ゆっくりと上半身を起こす。
「でも…でも…
わたくしはお人形ではありませんわ…
以前は、誰にも奇異の目で見られることなく、自由にドコへでも行けましたもの…」
「それは制作過程で『婚約者』が言い聞かせ続けた…つまり、植えつけられた偽の記憶だ。
君だって違和感を覚えていただろう?」
「でも…でも…
わたくしはお人形ではありませんわ…
だって…だって…
そう、花京院様も仰ったではありませんか。
お人形は動かない、と。
わたくしは動けますし、こうしてお喋りだって…」
「それは…」
要は大きな手で、青ざめた紫乃の頬に優しく触れた。
すると、縋るように見上げてくる、アッシュがかった黒く大きな瞳。
一つしかない、彼女の瞳。
「君のその目が、『死せる生者の宝玉』だから」
「‥‥‥え?」
思いもよらなかった要の言葉に、紫乃は絶句した。
だって、お伽話のようなモノだと言ったではないか。
なんの確証もないのだと言ったではないか。
この世界のドコかにそんな存在がいるかも知れないと興奮した自分に、夢想家だと、夢見るお姫様だと言ったのは、要本人だったはずではないか…