花京院家の愛玩人形
「どんなカタチでも君が幸せなら、言わずにいようと思ってた。
でも、どうせ泣くのなら、真実を知って思う存分泣いたほうがいい」
紫乃の眼帯が、要の手でそっと取り払われた。
「確かめてごらん?
君は、『死せる生者の宝玉』を一つだけ入れられ、中途半端に人間らしくなった人形だ」
言葉に促され、露わになった右目に細い指が伸びる。
最初は恐る恐る。
指先に触れるはずの感触がないことに気づき、やがて大胆に。
空っぽ。
空洞。
アイホールの中には、ナニモナイ。
「あ…
あ…
あ…あぁぁぁぁぁ…」
それでも不思議と両目から大粒の涙を溢れさせ、紫乃は悲鳴とも嗚咽ともつかない掠れた声を上げた。
なんの疑いもなく自らを『人間』だと信じていた『人形』の、アイデンティティクライシス。
「可哀想に…」
小さな身体と今にも壊れそうな心が、広くあたたかな胸にすっぽりと包み込まれる。
「最初から自分が何者かを知っていれば、こんなに苦しむことはなかったのに。
外の世界に憧れることもなかったのに。
人形として人に愛でられる喜びに満たされていられたのに…
どうして人形である彼女に、『人間だ』なんて悪意ある嘘を信じ込ませたの?」
途中で口調を変えた要は、紫乃を抱きしめたまま部屋のドアを険しく睨みつけた。