花京院家の愛玩人形

ソコはもう、DV中年の独擅場。


「フハハ、フハハハハハ!
紫乃は私のモノだ!私だけのモノだ!
ジャマする奴には制裁を下してやる!
紫乃!私に逆らったおまえにもだ!
この男を片付けたら、今度は腕を取ってやるからな!!」


動かなくなった紫乃を、マスクの中の血走った目で見つめながら。
動けなくなった無駄に長身の要を、力一杯廊下に向かって引きずりなから。

狂ったように信太郎は笑う。

だから彼は、小さな呟きを聞き逃した。


「…
お好きになさればよろしいわ…」


だから彼は、呟きに続いて上がった制止の声を聞き逃した。


「ちょ…ナニして…
やめて。
もうちょっとだけ待って」


信太郎は何も気づかなかった。

飛んできたナニカが思い切り肩に当たってよろめき、要から手を離してしまうまで。


「な…なな?」


突然の衝撃に取り乱し、痛む肩を押さえて辺りを見回せば、床にはワンピースの袖ごともぎ取られた細い腕。

驚いて振り返れば、乱れた髪の分け目から覗くたった一つの眼を怒らせた紫乃。

左腕が無くなった、紫乃。

まさか…


「紫乃…
おまえ…自分で…?」


信太郎は声を震わせて訊ねた。

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