花京院家の愛玩人形
息を切らして自分を捕まえようとする要に、紫乃は言う。
「この目をお返しさえすれば、あの方は満足なさるでしょう。
そしてわたくしがいなくなれば、信太郎さんと花京院様が争うこともないでしょう?」
もう胸まで沼に沈みながら、穏やかに微笑んで紫乃は言う。
「わたくしは、愛する殿方と好ましいと思う殿方が、わたくしの巻き添えで命を落とす様も、わたくしのことで傷つけ合う様も、見たくはないのです」
そうだね、知ってる。
君はそういう人。
全てを受け入れ。
全てを赦し。
献身と慈愛に殉ずるアガペーの化身のような人。
そんな君が、そんな結末を望むというのなら…
「…よし、わかった。
僕は君の全てを尊重し、全てを肯定する」
要は伸ばした手を引っ込め、紫乃を見つめて深く頷いた。
そして…
「おじゃまします」
トプン…
って!?沼に落ちやがった!?
なんの迷いもなく!?
沈みゆく紫乃をクルリと反転させて、背中から腰を抱いて、ふー、なんて息をついて…
ナニソレ、風呂か!?
紫乃は金魚のように口をパクパクさせた。
『アレ』のニヤニヤ笑いも、硬直したように見えた。