花京院家の愛玩人形
今日も訪ねた。
今日も断られた。
毎日訪ねた。
毎日断られた。
なんだったら居座ってみた。
フツーに追い払われた。
説得どころか会うこともできないンじゃ、打つ手ねェよ。
いっそオヤジを誘拐…あら?正攻法でいくはずが、本末転倒?
などと頭を悩ませていたある日、なんと紫乃の父親が逆に私を訪ねてきた。
自分から来たクセに、何も言わない父親。
何度もシミュレーションしていたクセに、緊張で何も言えない私。
重苦しい沈黙だけが流れていき…
紫乃の父親は、一通の手紙を置いて帰っていった。
ドアが閉まると同時に、テーブルに残されたソレに飛びついて。
ペーパーナイフを使うのももどかしく、封筒を引き裂いて。
あぁ、思った通り。
懐かしい、控えめな紫乃の香り。
懐かしい、几帳面で美しい紫乃の文字。
懐かしい、慕わしい、愛しい紫乃からの恋文…
だがその内容は、私が思った通りのモノではなかった。
しばらくあなたと過ごして、育った環境が違いすぎることがわかった、なんて。
しばらくあなたと過ごして、一時の感情で一緒になっても長くは続かないだろうということがわかった、なんて。
『ごめんなさい、信太郎さん
わたくしのことはもうお忘れになって
わたくしは、わたくしの両親が薦める方との結婚を決めました』