花京院家の愛玩人形

いやいや…

えぇ?

いやいやいやいや…

ナンダ?コレ。

サッパリ意味が飲み込めず、私は紫乃の手紙を何十回も、何百回も、貪るように読み返した。

夜がきて、やがて朝がきても、一心不乱に読み返し続けた。

ナニガドーシテコーナッタ?

狭く何もない部屋も、案外不便はないって言ったじゃない。

初めての家事も、あんなに頑張ってたじゃない。

二人ならなんだって乗り越えていけると笑ったのは、君だったじゃない…

あ、コレ、偽の手紙か。
私を諦めさせようって罠か。

…でも、間違いなく紫乃の字だし。

あ、なんか暗号が隠されてンのか。
まさかの縦読みか。

…でもこの手紙、そもそも縦読みだし。

もう認めざるを得ない。

手紙は正真正銘、紫乃が書いたモノ。
紫乃から私への、決別宣言。

だが…

本心ではないンだろう?

咎められて、責められて、命じられて。
私との別れを受け入れるしかなかったンだろう?

君は今も、私を思って泣いているンだろう…?

私は居ても立ってもいられず、不憫な紫乃の元に駆けつけた。

そんな私が目にしたモノは…

両親に付き添われて屋敷の門をくぐる、美しく着飾った紫乃。

待っていた高級車に、知らない男にエスコートされて乗り込む紫乃…

< 62 / 210 >

この作品をシェア

pagetop