花京院家の愛玩人形
不憫ってナンデスカ?
泣いてるってナンナンデスカ?
紫乃は笑っていた。
高そうなスーツを着た男に肩を抱かれて、控えめに、けれど幸せそうに笑っていた。
私の隣で笑っていた彼女そのままに…
優しくたおやかで、誰よりも何よりも美しい紫乃。
慎み深く従順で、だからこそ流されやすい、浮き草のような紫乃。
強引な押しに負けて、私を愛し。
強引な押しに負けて、私と逃げ。
私よりも絶対的な存在である両親に従い、私を捨て。
私よりも絶対的な存在である両親に従い、私ではない男を選び。
私ではない男を愛し…
なんて不実な女だろう。
なんて薄っぺらな愛だろう。
私が欲しいのは、そんなモノじゃない。
数日後私は、紫乃と秘密の交際をしている時に知った防犯カメラの穴になっているルートで、屋敷に侵入した。
準備していた一酸化炭素を屋敷中に充満させ、頃合いを見計らって火を放った。
紫乃と、紫乃にまつわるシガラミ全てを生きたまま焼き殺した。
火の輪よ、回れ。
ぐるぐる回れ。
悲しまないで。
嘆かないで。
むしろ喜んでおくれ。
君はすぐに蘇る。
私だけの傍にいて、私だけを見て、私だけを愛して…そして私だけに従い傅く、私だけの紫乃として蘇る。
唯一の絶対的な存在になった私と、他を全て失った君とで、今度こそ、今度こそ、今度こそ、生涯一度と思える激しい恋を成就させよう。
幸いなことに、その方法は知っている。