花京院家の愛玩人形
老舗呉服店店主の屋敷に火がつけられ、家人が一人残らず焼死した事件は、連日のように報道番組を賑わせた。
放火殺人として警察の捜査が始まったとも伝えられた。
でも、それがいったいナンデスカ?
私にとっての大切な思い出は、あの両親にとっては大いなる家の恥。
紫乃の恋も駆け落ちも、もちろん相手である私のことも、誰にも漏らしていないだろう。
オフィスの受付嬢の応対も、『毎日しつこくアヤシィ壺を売りにくる、迷惑なヤツ』へのソレだったし。
私に容疑がかかることは、絶対にない。
事件の捜査は難航しているという記事が載った新聞をダストボックスに投げ入れ、私は素知らぬ顔で海を渡った。
行き先はフランス。
目的は…
紫乃を蘇らせることが出来る、奇跡の宝玉を捜すため。
その存在を私に教えてくれたのは、人形職人としての私の師匠だった。
師匠は酒に酔うといつも、『人形師』にまつわる奇跡と、同業だった彼の死んだ父親が『人形師』だったという自慢話を弟子にしていた。
誉れ高い『人形師』の目だけに起こる奇跡。
人形に人間の生を与えることができる奇跡。
他の弟子たちは皆、酔っぱらいの戯言だと苦笑したが…私だけは信じていた。
荼毘に付される前に棺を開け、瞼を指で押し上げて。
師匠はコッソリ見たのではないだろうか。
奇跡が起こった父親の目を、見たのではないだろうか。
だからあんなにもハッキリと、父親は『人形師』だった、と断言できるのだ。
必ず、在る。
手に入れてみせる。
火葬が一般的ではなく、歴史的にも人形作りが盛んなフランスで、『死せる生者の宝玉』を…