花京院家の愛玩人形
フランスに着いた私は、小さな…というより、ちょっと胡散臭い美術商でアートディーラーとして働きはじめた。
得てしてそういうトコロのほうが、秘密裏に行われる後ろ暗いオークションなどの情報も入ってくるものだ。
私は改めて球体関節人形作りを学びながら、根気よく宝玉を捜し続けた。
愛を語り、思い出を語り、何度も失敗しながら徐々に私だけの紫乃を作り上げ。
有力と思える情報の入手、結局ガセネタで落胆、を何度も繰り返しながら奇跡を求め…
執念という名の長い年月が報われる瞬間が、遂に私に訪れた。
倒産寸前の骨董屋がオークションに出品した人の目によく似た気持ちの悪い玉を、ある日本人コレクターが驚くほどの高額で競り落としたらしい。
うん。
価値を知らないほとんどの人にとっては、ただただ気持ち悪いだけデスヨネ。
価値を知る一握りの人にとっては、大枚はたいてでも手に入れたい逸品デスヨネ。
本物である可能性大デスヨネ。
私は魂が宿る紫乃を連れ、すぐに宝玉を追って日本に帰った。
日本人コレクターはある意味かなりの有名人。
そのため住所などは簡単に割れたし、腕はいいが無名の人形作家を捜していることもすぐにわかった。
手に入れた宝玉を早速人形に仕込むつもりなら、好都合だ。
私は自作の人形を数体携え、コレクターの豪邸を訪ねてみた。
アポもないのに、やけに呆気なく会えた。
作品をチラっと見ただけなのに、やけに呆気なく腕を買われた。
調査した時に出てきた画像よりもかなり痩せ細ったコレクターは、やけに呆気なく私に仕事を依頼してきた。
そう、実に呆気なく。
私は『死せる生者の宝玉』と対面できたのだ。