花京院家の愛玩人形
右手を、右目に、当てた。
上下の瞼を、無理矢理、押し開いた。
そして、指を、深く、差し入れて…
皮膚が裂ける嫌な音が、神経や筋肉が引きちぎられる嫌な音が、気が狂いそうな激痛と共に脳を揺する。
だが、躊躇うな。
声を上げるな。
慎重に、だが『アレ』が異変に気づく前に、早く、速く、疾く。
愛し子よ。
最後にして最大のプレゼントを、君に。
「…ハっ」
床に血溜まりを作りながら、信太郎は一度だけ荒い息を吐き出した。
物言いたげな視線を感じて朱に染まった顔を上げれば、射抜くような鋭い眼差しで自分を見つめる要。
ちゃんと見ていたな?
人形作りを生業とする者ならば。
正気を疑うこの行為の意味がわかるだろう?
信太郎は右手の中にあるモノを要に向かって転がした。
自ら抉り取った血塗れの眼球を、転がした。
「頼んだぞ」
もう一度、祈るように囁き。
素早くポリタンクのキャップを開け。
ガソリンを頭から被った信太郎が、宙に浮かぶ『アレ』目がけて突進する。
完全に意識の外だったトコロからの襲撃に、為すすべもなく羽交い絞めにされる『アレ』。
ライターのフリントホイールに掛かる親指。
それから…
炎上。