花京院家の愛玩人形
「ガアアアァァァァァァァァァァ…」
耳を塞ぎたくなるような低くおぞましい絶叫に、紫乃はビクリと身を竦めた。
次の瞬間、沈んでいた身体が浮上し、元の硬い木の床に投げ出される。
あらら?沼が消えた?
コトンと首を傾げながら振り返った紫乃の、左目に映った光景は…
愛らしい表情はそのままに、炎に包まれてガタガタと揺れる両目のないビスクドール。
放すものかと腕の中にビスクドールを閉じ込め、炎に包まれて歯を食いしばる信太郎。
閉じた右目から血を流す信太郎…
「いやぁぁぁぁぁ!!??
信太郎さん!!??」
紫乃の口からも、甲高い絶叫が放たれた。
「あああぁぁぁ!!??
いやっいやぁぁぁぁぁっ!!??
信太郎さんっ信太郎さん─────!!??」
叫び、もがき、必死で右手を伸ばすが…
届かない。
腰を抱く要の腕は、もうさっきのように緩んだりはしない。
なぜ信太郎が出血しているのか。
なぜ信太郎が燃えているのか。
なぜ今、自分が動けずにいるのかも理解できず、紫乃は錯乱ぎみに長い髪を振り乱す。
わかっているコトは、たった一つ。
彼がああなることで、自分は解放された。
「どうして…?
どうしてこんな… 信太郎さん…」
床を引っ掻く指から爪が剥がれたことにも気づかずに、紫乃は大粒の涙をポロポロと零した。