花京院家の愛玩人形

「本当にすまなかった…」


炎の中から上がった声が、紫乃の胸を衝く。


「おまえは紫信だ。
私の紫乃じゃない」


炎の中から上がった声が、『紫乃』ではなくなった紫信の胸を抉る。


「おまえは生きなさい…
紫信…
生きて幸せになりなさい…」


炎の中から上がった声が、紫信の胸を引き裂く。


「どうしてそんなことを仰るの…?
わたくしは信太郎さんが…
わたくしも信太郎さんと…」


「許し…て…
紫乃… し… の‥‥‥
あ…いし‥‥‥テ…」


炎の中から最後に上がったのは、ココにはいない誰かへの言葉。

憎しみに狂いながらも愛さずにはいられなかった、今はもうどこにもいない美しい人への言葉。


「いや…
いや…
いやあああああぁぁぁぁぁ!!!!」


血を吐くように叫んだ紫信は…

不意に意識を失い、クタリと要の腕に全体重を預けた。

無理もない。

一連の出来事は、彼女の柔らかな心を打ち砕くには充分な衝撃だっただろう。

むしろよく頑張りマシタ。

だから、この先に起こったコトを目撃したのは、要だけ。

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