花京院家の愛玩人形
瞼を上げて最初に目にしたのは、シンプルな型のシーリングファンがついたコンクリート剥き出しの見知らぬ天井。
それから、視界の端からヒョコっと現れて顔を覗き込んでくる見知った男。
「おはよう。
僕が、わかる?」
「…おはようございます、花京院様」
「ココは僕の工房…つまり僕の家だ。
あれから一週間経ってるケド、状況は把握できてる?」
チラリと横目で見れば、足を組んでスツールに座った要の背後には、石膏の削りカスや胡粉で白くなった大きな作業台。
その脇に置かれたツールスタンドには、様々な種類の彫刻刀とスパチュラ。
そして壁際には、粘土やドールヘアなどの材料を収納した透明なケースが整然と並んだ棚と、巨大な窯。
なるほど、人形作家の工房だ。
それから、状況は…
状況は‥‥‥
「信太郎さんが亡くなりました」
天井を仰いだまま、生気のない乾いた声で紫信は言った。
そう、彼はもういない。
炎に包まれ、灰になり。
もうドコにもいない。
なのに虚無感が暗雲のように心を覆い、なんの感情も湧いてこない。
ただただ、空っぽ…
長い睫毛を伏せた紫信は、寝かされていたソファーベッドからノロノロと身を起こした。
身体を覆っていた白いシーツが滑り落ち、細い腰の周りに蟠る。