花京院家の愛玩人形
Ⅱ
コンっ
と、カーテンの向こうで窓を叩く音。
きっと風だろう。
少女は読んでいた単行本に視線を戻した。
細い指がゆっくりとページをめくる。
一枚、そしてまた一枚。
その少女は美しかった。
両サイドをラフに捻ってハーフアップにした、しなやかに波打つ栗色の髪。
陽に当たったことなどないかのような、病的なまでに白く透き通った肌。
フリルとレースがふんだんにあしらわれた、光沢を帯びたベージュのワンピースが包む小さな身体は、柔らかい丸みを有してはいるものの、驚くほど華奢だ。
片手で握り潰せそうな細い首の上に乗っかった顔も、これまた小造り。
スっと筋は通っているが、自己主張しすぎない小さな鼻。
頬と同色の薄紅で、下唇がぽってりと厚い小さな口。
だが、長い睫毛に囲まれた、たった一つのおっとりしたタレ目は大きくて。
ほんのりアッシュがかった黒い瞳も大きくて。
その全てが、小さな卵型の輪郭の中に、実にバランスよく収まっていて…
え?なんかオカシィって?
目が一つなワケないでショ?って?
いえいえ、オカシくないンです。
正しい記述です。
だって彼女の右目は、眼帯に覆われていたのだから。
うん。
キレイなモノ隠しちゃうとか、ちょっともったいないネ。
それでも、充分美しかった。
少女は男の庇護欲と嗜虐心を同時に掻き立てる、儚さと愛らしさを併せ持っていた。