花京院家の愛玩人形
三粒、四粒、五粒…
もう数えきれない。
きっとその雫の味は、悲しみでしょっぱく、切なさで苦く、そして溢れる愛で際限なく甘いことだろう。
まだ人間に成りきれていない美しい愛玩人形を腕の中に閉じ込め、シャツの胸元を濡らす誰かのための美しい涙を感じながら、要は…
横を向いて必死に舌打ちを堪えていた。
『ねェ、花京院様』
とかって優しい声で囁かれても、共感なんかできるワケねェって、コレ。
だからあの男の遺した『死せる生者の宝玉』を彼女に入れるのは、嫌だったのに。
あぁ、不本意極まりない。
鏡を見る度、彼女はあの男を思い出すだろう。
あの男に愛されていたことを思い知るだろう。
彼女はいつまでも、あの男の愛に囚われ続けるだろう。
そりゃ、あの男は頑張ったよ?
DV中年のクセに、『漢』と書いて『オトコ』と読んで然るべき最期だったよ?
でもさー…
でもさー‥‥‥
あぁ、不愉快この上ない。
いっそ、もう一度抜き取ってやろうか、コノヤロー。
…
言ってみただけですケドネ!?
そんなコト、とてもできませんからネ!?
あぁ、もう!
ほんっと憤懣遣る方ない。
「‥‥‥ふー」
食いしばった歯の間から行き場のない苛立ちを息と共に吐き出した要は、紫信を抱きしめたままスツールからソファーへと腰を移動させた。