花京院家の愛玩人形

「あの男は、こうして君を抱きしめた?」


紫信を抱く腕に少しだけ力を込めて身を屈め、細い首筋に顔を埋めて要は囁く。


「えぇ」


「あの男は、こうして君の髪を撫でた?」


紫信の形のいい後頭部を抱え、柔らかい栗色の髪を指で梳いて要は囁く。


「えぇ」


「あの男は、こうして君に口づけた?」


紫信の頬に唇を寄せ、流れる雫をそっと吸い取って要は囁く。


「えぇ、えぇ…」


チュっ、チュっ、と音を立てながら何度吸い取っても、光る雫は後から後から溢れ出す。

まるで枯れない泉のようだ。


「じゃあ、さぁ…」


片手は紫信の背に回したまま、もう片方の手で彼女の顎を掬い上げて瞳の奥を覗き込み、要は低く、低く、囁く…


「僕は君を抱いても良い?」




え、まじか。

ソレ、ど直球で聞いちゃうか?

そりゃ、イケそうな流れですよ?
ベッドの上でマッパの彼女をギュってしてても、グーパン食らってませんよ?

でもフツー、ど直球で聞いちゃうか?

勇者か。

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