花京院家の愛玩人形

瞳は乾かない。

それでも、やっと、笑ったね。


「僕が何をしようとも、君があの男を忘れることはない。
刻まれた愛の記憶は、決して消えない。
人形って、きっとそういうものだ」


「…」


「でも、あの男よりも強く、深く、優しく、僕が君を愛でるから。
誰よりも君を愛でるから。
だから君もいつか、誰よりも僕を愛してくれないか?」


「…
せっく…なんでしたかしら?
は、よくわかりませんけども…」


泣き笑いで歪んだ顔すら美しい人形の細くしなやかな腕が、首に絡みつく。

慎ましやかに、おずおずと。


「花京院様のお好きに愛でてくださいませ。
誰よりも強く、深く、優しく。
そうすればわたくしも、誰よりも花京院様を愛するでしょう。
お人形って、きっとそういうものですわ」


愛でてくださいませ、だって。

その調子。

もっと強請ってよ、愛を。
もっと強請ってよ、僕を。

折れそうな身体を抱きしめたまま押し倒せば、ソファーベッドがギシっと音を立てて軋む。

羽根が唇を掠めるようなバードキスが、口腔までも貪るような激しい口づけに変われば、乱れた吐息に艶めいた水音が混じる。

それから、重なる鼓動と途切れ途切れの嬌声。

望むままに与えよう。

僕が。

全てを。

< 83 / 210 >

この作品をシェア

pagetop