花京院家の愛玩人形
「その、要は…
お人形と寝食を共にしていらっしゃるのだと思っておりましたわ…」
紫信は怪訝そうに呟いた。
そう!
そう思ってた!
なのに、彼の部屋には人形が一体もない…
「ソレはあり得ない」
戸惑う紫信に、要は至極当然とばかりに頷く。
「男には知られたくない一面が数多くある。
そして、父親と娘の関係は非常に繊細だ」
「はぁ…」
「睡眠中の放屁を聞かれてしまったら?
鼻毛を処理する姿を見られてしまったら?」
「はぁ…」
「『クサイ』とか、『フケツ』とか。
さらには『洗濯物は一緒にしないでよねっ!』なんて、娘たちに言われて…
そんなコトになったら、僕は立ち直れる気がしない…」
「はぁ… 世のお父様方は大変ですのね…
お察ししますわ」
両手で顔を覆って項垂れてしまった要の肩にそっと触れ、紫信は同情を込めて首を左右に振った。
なんつーか…
お疲れ、娘を持つ全てのオヤジ共。
「まぁ、そーゆー気遣いのない、イヤガラセの塊みたいな父親も存在するケドね」
優しい手に慰められて気を取り直した要は、スタスタとデスクに歩み寄り、その上にあったノートPCを起動させた。