きみに、好きと言える日まで。
「君」
「はい」
指示され、秘書が抱えていた物を机の上に置いた。
それは、陸上記事のスクラップ。
華々しい、俺の軌跡……。
今更見たくもないそれに、自分の顔が歪んでいくのが分かった。
隣にいる親父にも同じ空気を感じた。
「お願いというのはだな。君にまた陸上をやってもらいたいと思ってね」
俺は驚きを隠せず、そう言った広瀬さんの父親の顔を凝視した。
俺に、また陸上をやれ……と?
それは予想すらしてなかった言葉で、瞬間、息が止まった。
「あの、それは……」
たまらず親父が腰を浮かして言葉を挟む。
「事故の日も、大事な大会の日だったそうじゃないか。君の実力ならインターハイに行けるとも聞いてそれはびっくりしてね」
身を乗り出してきた父親に向けて
「……もう、陸上はやめましたから」
なんとか告げた。
スクラップブックも閉じた。