きみに、好きと言える日まで。


無理だ。

そんな気力、もう残っていない。


いくら、相手側の要求だとしても、俺が陸上をやるかやらないかは全く関係ない。

第一、俺だけしたいことをするなんて許されないだろう……?



「それに、部へ戻ったら紗衣さんを送れなくなってしまいます」



"彼女を守るため、下校時は共にする"

交わされた約束。



「送り迎えは、うちの方で車を手配するから大丈夫だ」

「でも……」

「これは、紗衣の意向なんだぞ?」



口調が変わった。



「……ッ」



膝元に置いた手を、グッと握った。


それを言われたら───



「紗衣は、自分のせいであなたの夢を奪いたくないと言ってるの。自分はあんな体になってしまったのに……」



母親はそう言うと、涙を流した。



……誰かのためにはもう飛べない。


……跳びたくない。



それでも

俺はノーとは言えない。


言っちゃいけないんだ。

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