きみに、好きと言える日まで。
「小耳に挟んだけど、広瀬さんからのお願いだとか。まだ万全じゃないんだから無理しなくていいのに……」
広瀬さんの……。
スッと体の力が抜ける。
……なら、仕方ないよね。
広瀬さんの為に跳ぶんだ。
耀くんがゆっくり走り出す。
まっすぐにバーをとらえた目。
大好きだった、あの真剣な眼差し。
───瞬間。
広瀬さんの影が重なった。
『紗衣の為に跳ぶよ』
耀くんは、そう言ったんだろうか。
そう思ったらいたたまれなくて、グラウンドにくるりと背を向けた。
「……まひろ」
「凛ちゃんやろ、続き!」
「見ないの?」
「…………」
耳を澄ませば聞こえてくる、助走の音。
目に浮かぶ。
耀くんが舞う姿が。
けど。
───見れない。
体全体で、それを拒否していた。
「行けないよ?」
「え……?」
「さぼってると、インハイ行けないよ!!」
あたしはグラウンドに背を向けたまま、ラケットを振りかざした。