唯一の愛をキミに【完】
充の親が充に与えた高級マンション。


厳重なオートロックがかかっている扉の前で充の部屋番号を押す。


『はい。だれ?』


「俺」


『俺ってだれ?』


「ふざけんな。開けろバカヤロー」


そう言うとスピーカーの向こうから小さくため息が漏れて聞こえた。


『はぁ…。まぁ、哲は来ると思ってたよ。どうぞ』


ガチャリとオートロックが解除される音が聞こえて扉を開く。


一流ホテル並みのエントランスを抜けてエレベーターで最上階まで昇る。


「いらっしゃい。どうぞ」


充が力なく笑いながら俺を中に通し、相変わらずだだっ広いリビングに置いてある革張りのソファーに座る。


「なんか飲む?ってもビールしかないけど」


「いや、いい。いらない」


充もソファーに座りしばらく沈黙が続いた。


そしてその沈黙を破ったのは充の方だった。


「……なぁ、哲。哲ってさ、唯ちゃんと付き合ってる中でつまらないなぁとか刺激ほしいなぁって思ったりしない?」


「は?」


「ある訳ないか。おまえら羨ましいくらいに仲良いから」


「充だって由香里と仲良いだろ?」


俺はその仲の良さをずっと目の当たりにしてきたんだ。


由香里に惚れて、充に惚れている由香里をずっと側で見てきたんだ。


「仲は良いよ。だけど由香里がモデルの仕事で会えない日が続くとさ、やっぱり人肌恋しくなる訳」


「じゃあさっきの女は?」


「うん。浮気相手。いつからかな?軽井沢にみんなで行ったときにはもう付き合ってた」


やっぱりな。さっきのあの様子を見ていたし、充の過去を知っているから浮気と聞いても驚かなかった。
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