正しい君の忘れ方
5月
彼に出会ったのは5月だった。

バイト先の親睦会。

背の高い私よりも少し大きく、
それでいて病的に細い。

帰りの電車に揺られながら
声をかけられた。

「名前…なんだっけ。ごめん。覚えるの苦手なんだ。」

少し掠れて、でも澄んでいて、
少し高めで、ため息をついたような声。

声フェチの私が理想とする声だった。

体中の毛が逆立つような
そんな感覚に溶かされた。

「星野 唯…」

「星野さん。星野さんね。おっけ」

ふんふんと3回ほど頷いて
彼は吊革をギュッと握った。

それにしても誰だろう。
こんな人いたっけな。

そう思いながら私も
手すりをギュッと掴んだ。
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