花盗人も罪になる
不倫なんて
「香織、不倫ってしたことある?」
会社の昼休み。
行きつけのカフェで、ランチのサラダをフォークでつつきながら、同僚の円が突然尋ねた。
香織は唐突なその問いかけに驚き、口に含んでいたランチスープを吹き出しそうになった。
突然何を言い出すのか。
香織は紙ナフキンで口元を拭いながら怪訝な顔をした。
「不倫って……あるわけないよ、そんなの」
そんなもの香織にとっては、ドラマや小説の中での特殊な出来事だ。
不倫どころか普通の恋愛でさえ難しいのに。
「突然どうしたの?」
「ん?聞いてみただけ。好きな人に奥さんがいた場合、香織ならどうするのかなぁって」
なんの前触れもなくこんなことを言い出すなんて、さては不倫をテーマにした恋愛ドラマにでもハマっているな。
そんなふうに考えながら、香織はサラダのレタスを口に入れた。
「どうもしないよ……。そもそも奥さんがいる人は好きにならない」
「どうして?」
「もし好きになったとしても、奥さんがいるってわかった時点であきらめるし」
「へーぇ……香織はあきらめちゃうんだぁ……。その人が好きなら付き合いたいとは思わない?」
円は不思議そうにそう呟いて、スープカップに口をつけた。
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