花盗人も罪になる
「ののちゃん、いっくん帰ってきたから御飯にしようか」

「うん、お腹すいた!」

ガスコンロの上には、辛口のビーフカレーの鍋と、希望のために作った甘口カレーの鍋が並んでいる。

子供がいる家庭ならよくある光景なのだろう。

しかし子供のいない村岡夫妻にとっては、いつも面倒を見ているとは言え、姪の希望の存在自体が新鮮だった。

「ののちゃん、いっぱい食べてね!」

「うん! いただきまーす!!」


希望は逸樹と紫恵のことを、本当の両親のように慕っている。

産後たったの3ヶ月で職場復帰せざるを得なかった心咲の代わりに、希望がまだ赤ちゃんの頃から面倒を見てきた紫恵にとって、希望は我が子同然だった。

希望の成長を見守りながら、自分達にも子供がいたらこんな感じなのかな……と思うことも少なくない。

「あのねいっくん、のの、今日しーちゃんとお買い物に行ったよ。お手伝いしたの」

「なんのお手伝いしたの?」

「えっとね、ジャガイモとタマネギかごに入れた」

「それから帰りにパンの入った袋持ってくれたね」

「えらいなぁ、ののちゃん」

逸樹に誉められ、希望は満足げに笑っている。

希望を見つめる紫恵はいつも、とても優しい目をしている。

そんな紫恵を見るたび、やっぱり我が子を抱かせてやりたいと逸樹は思う。


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