花盗人も罪になる
もし逸樹の子供を産むことができたとしても、逸樹が他の女と浮気していたら、とても正気じゃいられないだろうと紫恵は思う。

『好きにすればいい』なんてつい言ってしまったけれど、やっぱり自分だけの逸樹でいて欲しい。

ずっと逸樹だけを愛したいし、逸樹にも自分だけを愛して欲しい。

それが紫恵の本音だ。

綾乃夫妻には綾乃夫妻なりの事情があって、この状態に納得した上で結婚生活を続けているのだと思うが、紫恵にはやっぱりその気持ちが理解できなかった。

「私は……やっぱりイヤだな……」

紫恵が思わず呟いた。

「何が?」

綾乃には紫恵の気持ちがわからないようだ。

「他の人として欲しくない」

「紫恵んとこはラブラブだからねぇ」

「そんなことないけど……」

つまらない意地の張り合いで逸樹と気まずいままここに来ている紫恵は、綾乃の言葉に素直にうなずけなかった。

「紫恵は結婚何年目だっけ?」

「7年目」

「うちみたいにセックスレスとかじゃないんでしょ?」

友達とはいえ、こういう話をするのは照れくさい。

「それは……まあ……普通に?」

「紫恵の言う普通って、どれくらいの頻度なの?」

曖昧にぼやかしたつもりだったのに、綾乃はかなり突っ込んだことを尋ねる。

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