花盗人も罪になる
二人とも望んで子供を作らなかったわけじゃない。

欲しくてもできなかった。

不妊治療をして授かったことは5年前と4年前の2度あったが、2度とも早い段階で流産してしまった。

紫恵は元々子供ができにくい体質らしく、妊娠しても子宮内で受精卵が育ちにくいらしい。

子供が好きな二人は心から子供を望んでいた。

けれど、2度目の流産の後、度重なる悲しみに耐えかねて不妊治療をやめた。


“望んでも与えられないということは、きっと夫婦二人きりでいることにも意味があるんだと思う”


そう言ったのは逸樹だった。

紫恵の流産による体への負担は計り知れない。

もう無理をしてまで紫恵に悲しい思いはさせたくないし、逸樹にとってもそれは同じだった。


“子供がいない分、お互いを大事にして二人で生きていこう”


そう約束してしばらく経った頃、心咲が妊娠して希望を産んだ。

しかし心咲は性格の不一致と価値観の違いから妊娠中に夫とは離婚していたので、一人で希望を育てなければならなかった。

職場では役職に就いて常に忙しく、悠長に1年も産休をとっている暇はないと言ってあっという間に職場復帰した。


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