花盗人も罪になる
「あれ、一人?」

「今はね」

「なんだよ、紫恵全然飲んでないじゃん。一緒に飲もうぜ」

松山は店員を呼び止め、紫恵が聞いたこともない名前のお酒を2つ注文して、空いていた隣の席に座り、じっと紫恵を見つめた。

「それにしても紫恵はホント、昔と全然変わらないな」

「成長してないってこと?」

「いや、相変わらずかわいいってこと」

なんだかやけにじろじろ見られているような気がするし、その距離が近いような気がする。

「またまた……調子いいんだから。そんなこと言ってるとナナちゃんに怒られるよ?」

気のせいかなと思いながら、紫恵は会話を続けた。

「紫恵、結婚したんだろ? 何年になる?」

「結婚して6年ちょっとだから、今7年目。松山くんもナナちゃんと早くに結婚して子供が3人もいるんでしょ?」

「うちは9年目。子供は8歳と5歳と2歳」

30歳にして9年目ということは、大学在学中に結婚したのだろう。

店員が運んできたお酒を松山が受け取り、ひとつを紫恵に手渡した。

なかば強引に乾杯させられ、紫恵は仕方なくお酒を飲む。

< 115 / 181 >

この作品をシェア

pagetop