花盗人も罪になる
その時、心咲が紫恵に言った。


『私はこの子を産むことはできたけど、母親としてだけ生きることはできない。この子を人並みの子に育てるために、紫恵の力を貸して欲しい』


もう我が子を産むことはできないかもしれないけれど、自分とも血の繋がった希望を心咲と逸樹と一緒に育てるのも幸せなんじゃないか。

そう思った紫恵は、母親同然に希望の面倒を見ている。

逸樹もまた、父親のように希望をかわいがっている。

子供がいなければ経験できないことを、希望は逸樹と紫恵に経験させてくれる。

ただやっぱり心のどこかでは、これが我が子なら……と思っていても、お互いに口にはしない。

希望はこの手に抱くことのできなかった自分たちの子供の代わりなどではなく“早川 希望”というひとりの人間なのだから。



夜遅く心咲が迎えに来た時には、希望は逸樹のそばで寝息をたてていた。

夕飯後、逸樹と一緒に入浴を済ませた希望は、お気に入りのパジャマで母が迎えに来るのを待っていた。

逸樹に絵本を読んでもらっているうちに眠ってしまった希望の寝顔は、我が家にいるように安心しきっている。

逸樹は起こさないようにそっと車まで運んだ希望の頭を優しく撫でて、紫恵と一緒に心咲を見送った。


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