花盗人も罪になる
花盗人と花を守る人
「村岡主任、申し訳ないんですけど、家まで送ってくれませんか」
金曜日の残業が終わった帰り道、逸樹と一緒に駅に向かっていた円が突然言い出した。
「迎えに来てくれる約束だった友達から、急に都合が悪くなったってさっき連絡があって……」
逸樹は驚いた顔をして、少し考えるそぶりを見せた。
「この間一人で帰った時も家のすぐそばまで後をつけられて、すごく怖かったんです。お願いします!!」
ストーカーに悩んでいると相談を受けてからずいぶん経つ。
どうして円はそんな怖い思いをしても警察に相談しないのか?
逸樹は怪訝な顔をした。
「やっぱり警察に相談した方がいいと思いますよ。取り返しのつかないことが起こる前に」
「そうですね……でも今日はもう警察には……」
「駅からタクシー使えばどうですか?」
「家の場所を知られているみたいなんです。タクシーでアパートの前まで帰っても、部屋のそばで待ち伏せされてるかもって……」
送っていくのは気が進まないが、困っている部下を見過ごすわけにもいかない。
「私が鍵を開けて部屋に入るまで一緒にいてもらえませんか? 今日だけでいいんです! お願いします!!」
円があまりに必死に頭を下げるので、逸樹は仕方なくうなずいた。
「わかりました。でもできるだけ早く警察に相談してくださいよ」
「はい、ありがとうございます!!」
円は嬉しそうに笑ってまた頭を下げた。