花盗人も罪になる
逸樹は腕時計を見て、まっすぐに帰っていたらもう家に着いている頃だなと思いながら歩き始めた。

この間は辺りを警戒してソワソワしていた円がなんだかやけに楽しそうにしている。

今日は誰かに後をつけられている気配はないのだろうか?

「今日は誰もついてきてないんですか?」

「まだわかりません。駅から後をつけられる時もあるし、途中でそれに気が付くこともあるので……」

住宅街は街灯がついていても夜になると人通りがほとんどない。

コンビニの近くは少し明るいものの、通り過ぎるとまた薄暗くひっそりとしている。

「女性の一人暮らしにはあまり適していない場所ですね」

「そうかもしれませんね」

わかっているなら引っ越しを考えればいいのにとは思うが、円にも事情があるのだろうから仕方がない。

逸樹はとりあえずさっさと送り届けて家に帰ろうと先を急いだ。

「村岡主任って優しいですね」

円が突然呟いた。

「なんですか? 急に」

「仕事に関係ない相談にも乗ってくれて……おまけにこんな無理をきいてくれるなんて、ホントに優しい……」

上司だから仕方なくそうしただけなのに、なんだか円にはずいぶん買い被られているようだ。

< 130 / 181 >

この作品をシェア

pagetop