花盗人も罪になる
「今の職場に配属になってから、まだ日が浅いもんね」

「子供はいないって言ったら、夫婦二人きりで新婚みたいで羨ましいだってさ」

「うん、私もたまに言われる」

何気なく言われたその一言に、紫恵がどれだけ傷付いているのかと思うと、逸樹の胸がしめつけられるように痛んだ。

「もし子供がいても、俺はちゃんとしーちゃんを大事にするよ?」

「ホント?いっくんは昔からモテるから心配だな……浮気とか絶対なしだよ?」

「するわけないじゃん、俺はしーちゃんが好きだから結婚したんだよ?他の子には全然興味ない」

「ホントかなぁ……」

逸樹は小さく笑う紫恵を抱き寄せて優しくキスをした。

「ホント。だからしーちゃんも俺以外の男なんか好きになるなよ」

「当たり前でしょ?私もいっくんしか考えられないもん」

「じゃあ……これからもずっと俺のことだけ考えてて」

「うん」

それから二人は優しく抱きしめ合って、何度もキスをして、お互いの温もりを求め合った。

その温もりは、子供を作るためだけに義務のように体を重ねていた頃には得られなかった。

いつか子供ができたら……とは思うけれど、このまま二人きりで歳を重ねるのも悪くない。

今の二人には、素直にそう思えた。



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