花盗人も罪になる
愛するということ



会社の昼休み、香織は円といつものカフェに来ていた。

円はランチのサラダをフォークでつつきながらため息をついた。

「しかしホントに驚いたわ……。なんの前触れもなくいきなり結婚しちゃうんだもんなぁ……」

「もう……またそれ?」

香織は今朝から何度も聞かされた円の言葉に苦笑いを浮かべた。

「だって結婚するなんて一言も言わなかったでしょ?」

「まぁ……急に決まったからね……」



大輔にプロポーズされてからの数日間、息をつく間もないほど目まぐるしかった。

プロポーズの2日後、大輔と香織は両家の両親の顔合わせのための食事会を開いた。

『香織と結婚させてください』と大輔が言うと、香織の両親は大輔との結婚には反対しなかったが、娘が見知らぬ土地でうまくやっていけるのかと懸念した。

その時大輔は、香織にも仕事があるし、知人も身内もいない場所へいきなり連れて行くのはかわいそうだから、こちらに戻って両親の経営している学習塾を講師として手伝うつもりだと言った。

大輔はいずれ役に立つかもと教員免許を取ったけれど、その時は教師よりサラリーマンになることを選んだそうだ。

二人で話し合った結果、結婚式と新婚旅行、新居探しは大輔がこちらに戻るのが正式に決まってからにして、それまでは別居婚という形を取ることにしたと話した。

結婚していきなり別居はいかがなものかという意見も出たが、とにかく香織と一日も早く結婚したいという大輔の熱意で、両家の両親から結婚の了承を得た。


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