花盗人も罪になる
お互いに一目惚れだったということは、付き合ってしばらく経った頃に知った。

それから半年後、逸樹が紫恵にプロポーズ。

付き合って1年ちょっとで二人は結婚した。

逸樹が26歳、紫恵が23歳の時だった。

若くして結婚を決めたのは、お互いに少しでも長くそばにいたいと思ったから。

それは嘘ではないけれど実際は建前みたいなものだ。

紫恵本人には自覚はないようだが、癒し系で小動物のように愛らしくて、気付かないうちに男を勘違いさせてしまう紫恵を、逸樹は他の誰にも渡したくなかった。

紫恵もまた、背が高くてカッコ良くて優しい逸樹が女の子にモテることを知っていたから、逸樹にプロポーズされた時には、これでやっと安心できると思い、まったく迷わなかった。


自分の知らない高校時代の紫恵を好きだった男や、付き合っていた元カレがいてもおかしくない。

そんな場所に紫恵を一人で送り出すのは、逸樹にとって穏やかではない。

「もしかしたらそのクラスに元カレなんかがいたりして……」

「ん? ああ……うん、いるねぇ」

紫恵を信じていないわけではないが、懐かしさで勘違いなどしないかと逸樹は不安になる。


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