花盗人も罪になる
同じ痛みを持つ人



その日紫恵は、あるマンションの一室を訪れていた。

その入り口には、手作りの`くるみ手芸教室´のプレートが提げられている。

紫恵が趣味をいかして手芸教室の講師をし始めて2年になる。



昔から手芸が好きだった。

小学校で家庭科を習い始めるより早く、紫恵は母親に針と糸の使い方を教わり、フェルトで小物を作ったり、手縫いで簡単な袋物を作ったりしていた。

中学、高校と手芸部で活動して、女子短大の服飾科卒業後は小さなアパレルメーカーに就職した。

しかしその会社は、紫恵が就職して1年半ほどで倒産してしまった。

思えば、それがなければコンビニでアルバイトをすることはなかっただろうし、そうなると逸樹にも出会えなかった。

会社が突然倒産して路頭に迷った時には困惑もしたし怒りも覚えたが、今にして思えば、それは逸樹に出会うための必然だったのだと紫恵は思う。


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