花盗人も罪になる
「その点、紫恵先生は優しい旦那様と仲良しでいいわねぇ。浮気なんて絶対にしなさそう」

「いや……うちも普通の夫婦だと思いますよ。……子供がいないだけで」

夫婦二人きりでいたいから子供を作らないわけじゃない。

どんなに欲しくても、妊娠しても産めなかっただけだ。

だけどそれをここで話して何になるだろう?

紫恵はちょっと困った顔をして、作り笑いを浮かべた。

「ちょっとおしゃべりに夢中になりすぎなんじゃなーい? 気を付けないとニードルで指刺しちゃうわよー」

柊子がやんわりとたしなめると、生徒たちはおしゃべりをやめて真面目に作業をし始めた。

生徒たちが黙々と作業を進める中、紫恵と柊子は顔を見合わせて、そっと苦笑いをした。


子供のいる人に子供のいない自分たちの気持ちがわからないように、子供のいない自分たちには、子供のいる人たちの気持ちはわからない。

子供のいない自分たちには、子供のいる喜びもなければ、子供の父親としての夫に対する不満もない。

子供がいない分、夫はこの先も子供を産めない自分と一緒にいてくれるだろうかという不安は常に付きまとう。


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