花盗人も罪になる
香織は翌日もその翌日も、残業する円より一足先に定時で仕事を終えて帰路に就いた。

家に帰ってベッドに横になり、スマホを手に取る。

ここ最近、遠距離恋愛中の彼氏の大輔(だいすけ)からの連絡がない。

仕事が忙しいのだろうか。

前に会ったのは2か月も前だ。

毎月1度はこちらに会いに来てくれるが、先月は繁忙期な上に体調を崩したと言って、会うことができなかった。

今月に入ってもまだ会っていないので、今週末に会えるか聞いてみようと、香織は大輔にメールを送った。

しかしその日はいくら待っても大輔からの返信はなかった。


大輔は香織よりふたつ歳上の28歳。

1年半ほど前、友人が勤めているレストランで開かれた誕生日パーティーに招待された時に出会った。

パーティーで他の招待客にぶつかられた香織がジュースをこぼして大輔のスーツを汚してしまったのが、二人が知り合ったきっかけだった。

香織はスーツを汚してしまったことを謝り、クリーニング代を払うと言ったけれど、大輔はそれを断った。

それならせめて何か別の形でお詫びをしたいと香織が言うと、大輔は香織を映画に誘った。

約束通り映画を観に行った帰り道、また会って欲しいと言ったのは大輔だった。

その次に二人で会った帰り際、大輔が香織に付き合って欲しいと言って、それから二人は恋人として付き合うようになった。

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