花盗人も罪になる
ちょうど新商品の発注が済んだ時、香織のそばに背の高い男性が立った。

先月この部署に配属になった主任の|村岡逸樹
《むらおか いつき》は、学生時代バスケをしていたというだけあって背は高いが、物腰が柔らかく上司にも部下にも腰が低い。

近田(ちかだ)さん、これお願いします」

香織は差し出された書類を受け取って、簡単に目を通した。

「はい。今日中で大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」

新入社員の頃は何もかもが初めてで、課せられた目の前の仕事でいっぱいいっぱいになっていたが、入社5年目にもなると仕事の見通しもたてられるようになり、そこそこの仕事も任されるようになった。

この分だと今日は定時に仕事を終われそうだと香織が思っていると、隣の席で円がため息をついた。

「もーっ、なんで終わらないの?」

それは円が真面目に仕事をしないからだと言いたいのを我慢して、香織は任された仕事に取りかかる。

「もう一息でしょ。頑張って」

たいした量の仕事をしているわけでも難しい仕事でもないのに期限に間に合わず、なんだかんだで円の仕事をしょっちゅう手伝わされる香織は、同期なのにこれで同じ給料なのが不服だと少し思う。


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