花盗人も罪になる
「この歳になってさ……若い子と恋したいって気持ちはわからなくもないわよ。でもそれじゃアンタの子を産んで育てて一緒に歳を重ねてきた私はなんなの?って話よね」

真理子さんは少し寂しそうにそう言った。

「とりあえず……ただの遊びにしたって、子供たちのためにもこれ以上は見過ごせないわ。ちゃんと話してみる」

『子供たちのためにも』と真理子さんは言ったけれど、もし真理子さんに子供がいなければ、どんな選択をするのだろうと紫恵は思った。



手芸教室が終わると紫恵は自宅に戻り、クリーニングに出すためにスーツのポケットの中を探った。

ポケットの中からは、ガムの包み紙とクシャクシャの紙切れが出てきた。

紫恵はなんとなく紙切れを広げてみる。

それはカフェのレシートだった。

日付は昨日、時間はPM8:07。

注文したのはホットのブレンドコーヒーをふたつ。

その下には“2名様”と記されていた。

それを見た紫恵は、手芸教室で真理子さんが言っていた言葉を思い出してドキッとした。

逸樹が会社帰りにカフェに寄るなんて珍しい。

それも残業をした後のこんな時間というのが引っ掛かる。


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