花盗人も罪になる
逸樹を一番知っているのが自分であることは間違いないし、逸樹にこんなに求められているのだから、浮気なんて有り得ない。

あんなのただの思い過ごしだ。

次第に熱を帯びて激しくなっていく愛撫に身悶えながら、紫恵は夢中で腕を伸ばして逸樹を抱きしめた。

逸樹が自分以外の誰かの元へ行ってしまわないように。



夕飯を終えて二人仲良くお風呂に入った後、いつもより早い時間にベッドに横になり、寄り添いながら話をした。

「あ、そうだ。今朝頼んだスーツ、クリーニング出しといてくれた?」

「ああ、うん。明後日の夕方には出来上がるって」

「良かった。来週出張なんだ」

出張と聞いて、紫恵はまた真理子さんの話を思い出してドキッとしてしまう。

「出張って、どこに行くの?」

「ん?大阪支社だよ。しーちゃんも大阪に行きたいの?」

逸樹は笑って紫恵の頬をつつく。

「行ったことないし行ってみたいけど、さすがに出張についてくわけにはいかないもんね。我慢する」

「じゃあお土産買ってきてあげる。出張だから今回は連れて行ってあげられないけど、いつか一緒に行こうよ」

「うん。浮気なんかしないでまっすぐ帰ってきてね」

紫恵が少し冗談めかしてそう言うと、逸樹は紫恵の額にキスをした。

「当たり前。他の子には興味ないし、俺が帰る場所はしーちゃんだから」

こんなに愛してくれているのだから、逸樹は出張だと嘘をついて浮気したりしない。

きっと大阪名物の美味しい物をお土産に、仕事が終わればまっすぐ帰ってきてくれるはずだ。



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