花盗人も罪になる
理想の結婚
よく晴れた土曜日。
香織は母と一緒に手芸教室に足を運んだ。
前から興味はあったが、やったことのない羊毛フェルトを教わることに決め、香織は期待に胸を膨らませていた。
『くるみ手芸教室』のプレートのかかった部屋のチャイムを鳴らすと、髪の長い女性がドアを開けた。
「近田さんこんにちは。今日はお嬢さんもご一緒でしたね」
「はじめまして、香織です」
「講師の楜澤 柊子です。生徒さんにはくるみ先生って呼ばれてるの。さあ、中へどうぞ」
案内されて中に入るとテーブルのそばでは、見覚えのある小柄な女性が作業に必要な物を準備していた。
「紫恵先生、こんにちは」
母が声を掛けると、紫恵先生と呼ばれたその女性がゆっくりと顔を上げた。
「こんにちは、近田さん。……あっ」
「あっ、あの時の……」
香織と紫恵はお互いにスーパーで出会った女性だと気付く。
「紫恵先生、こちら近田さんのお嬢さんの香織さん」
柊子が香織を紹介すると、紫恵がなるほどというように何度もうなずいた。
「あっ……だからかおちゃんなんですね」
「かおちゃん?」
柊子は怪訝な顔をして首をかしげた。
「この間、スーパーでののちゃんが迷子になって……香織さんがののちゃんと一緒になって私を探してくれたんです」
紫恵は柊子に説明をすると、香織に深々と頭を下げた。