花盗人も罪になる
一緒にいるとなんとなく癒やされるのは、もしかしてこの人からマイナスイオンでも出ているからじゃないかなどと考えて、香織は思わず込み上げる笑いをこらえた。

少しうつむき加減で笑いをこらえていると、逸樹が香織の方を見た。

「どうかしました?」

声を掛けられてそちらを向いた香織は、なぜか逸樹に見とれてしまいそうになり、慌てて目をそらした。

「い……いえ、なんでも……」

いつもより鼓動が速い。

頬が火照っているのがわかる。

上司で既婚者の『村岡主任』相手に、何をこんなにドキドキしているのだろう?



池の周りを一周し終わる頃、いよいよ雲行きが怪しくなり始めた。

「ののちゃん、雨が降らないうちに帰ろう」

逸樹が手を差し出すと、希望は首を大きく横に振った。

「やだー。のの、まだりぃちゃんと遊ぶの!」

「でもそろそろ雨が降ってきそうだよ」

「まだ降らないもん!」

逸樹はイヤイヤと駄々をこねる希望を少し困った顔をして見ている。

香織はりぃのマスコットをポケットの中に入れていたことを思い出し、希望の鼻先に差し出した。

「ワンワン、僕りぃだよ。ののちゃんと遊びたいな」

希望はりぃのマスコットを目をキラキラさせて見つめている。

「ちっちゃいりぃちゃんだ!」

マスコットを手渡すと、希望は嬉しそうに笑った。


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