花盗人も罪になる
やっぱり紫恵は不服そうに目をそらして、何か言いたげだ。

希望はりぃちゃんとミミちゃんを手に、うつらうつらし始めた。

「しーちゃん?」

「なんでもない。コーヒー淹れるね」

紫恵は立ち上がり、キッチンに向かった。

逸樹はその背中を見つめながら、眠ってしまった希望の小さな体にブランケットを掛けた。

コーヒーメーカーをセットしながら、どうしてこんなにモヤモヤするのかと紫恵は考える。

逸樹が前の職場にいた頃や今の部署に配属になってすぐの頃までは、その日の出来事や同僚のことを毎日事細かに話してくれたのに、最近は自分の知らないことが多いように感じる。

先日のカフェのレシートにしてもそうだ。

逸樹にやましいことが何もないから、わざわざ紫恵に話すほどのことではなかったのかもしれない。

でも昔から逸樹は自分がモテるということに無自覚で、近付いてくる女の子の好意や下心にも気付かないのだ。

結婚したら安心できると思っていたのは大きな勘違いで、結婚後も逸樹がモテることには変わりなく、本人がそれに気付いていないのも変わらなかった。

紫恵がそんなことを考えながらデキャンタに落ちるコーヒーを眺めていると、すぐ後ろに逸樹が立った。

「しーちゃん……なんか怒ってる?」

「……怒ってないよ」


< 70 / 181 >

この作品をシェア

pagetop