花盗人も罪になる
逸樹は後ろからそっと紫恵を抱きしめた。

「だったらなんで急にそんなに機嫌悪くなったの?」

「……最近私の知らないことが多いような気がして、なんとなくちょっとモヤッとしただけ」

「知らないことって近田さんのこと?」

「香織さんのこともだけど……スーツのポケットに入ってたカフェのレシートとか……」

逸樹は円に相談に乗って欲しいと言われてカフェに入ったことを思い出した。

「ああ、あれか……。残業終わって帰り際に相談したいことがあるって部下に言われて仕方なく入ったんだけど」

「男の人?」

「ううん、女の子」

一体なんの相談だったのか。

相談に乗ってもらうふりをして逸樹を狙っているのではないかと、紫恵は少し不快感をあらわにした。

「ほら、やっぱり……」

「でも俺はやましいことなんてひとつもないよ?」

やっぱり逸樹は無自覚だ。

逸樹が嘘を言っているわけではないとわかっているのに、紫恵はどうしても不安を拭えない。

「あのね……その人とか香織さんがそうだっていうわけじゃないけど、いっくんがなんとも思っていなくても、いっくんのことが好きで近付いてくる女の子もいるの」

「そんなことないと思うけどな……。俺にはしーちゃんがいるし、結婚してるし」

「結婚してても関係ないって人もいるの。それは忘れないで」

「ふーん……」


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