花盗人も罪になる
翌朝、逸樹は4泊5日分の着替えの入ったバッグを手に出張先の大阪へ向かった。

家を出る間際には何度も紫恵にキスをした。

出張はたったの5日間だというのに、逸樹は大袈裟なくらい名残惜しそうにしていた。


『本当は1日だってしーちゃんと離れたくないんだよ』


そんな逸樹の言葉に、紫恵は照れ笑いを浮かべて、いってらっしゃいのキスをした。

結婚して6年ちょっと、付き合いだしてからは7年半ほど経っていて、一緒に暮らして毎日そばにいるのに、少しでも離れるとお互いに寂しいと思う。

紫恵はそれを惜しみなく伝えてくれる逸樹がたまらなく好きだ。

ほんのわずかな不安も、小さな嫉妬も、体ごとすっぽり包み込んで溶かしてくれる。

恋愛感情や下心を持って近付く人がいても、逸樹は紫恵以外の人のそれを受け入れない。

紫恵もまた、逸樹以外の人のことは考えられない。

きっとこれからもずっと二人で寄り添って、お互いを愛し合って生きていける。


そんな気がした。




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