花盗人も罪になる
壁時計が7時を報せると、希望はテーブルに並んだ二つのお皿を眺めながら首をかしげた。

「しーちゃん、いっくん今日も帰ってこないのー?」

「そうだよ。お仕事で遠くへ行ってるの」

紫恵は二人分のおわんにごはんと味噌汁をよそって、テーブルに並べた。

「いつ帰ってくる?」

「明後日の晩には帰ってくるからね」

「明後日?」

「うん、明日の明日」

希望は不満そうに唇をとがらせた。

「のの、早くいっくんに会いたい」

「そうだね。早く会いたいね」




その頃。

大阪にいる逸樹は、ようやく今日の仕事を終えて同僚と一緒に宿泊先のホテルに戻った。

「今日も疲れたな……。そうだ、飯食った後、飲みに行かないか?」

部屋に戻るエレベーターの中で一緒に大阪に来ているメンバーを年長者の飯塚主任が誘った。

「明日も仕事ですよ?」

「酔い潰れるまで飲まなきゃいいじゃん」

「とりあえず腹減りました……飯にしましょうよ……」

一度部屋に戻り荷物を置いた後、食事に出るために同僚たちとエレベーターホールで待ち合わせた。

「飯食って酒飲むんなら居酒屋でも良くないですか?」

逸樹より1年先輩の岡本主任が疲れた顔でそう言ってネクタイをゆるめた。

「大阪に単身赴任してる連れからいい店教えてもらったんだ。あとでそこ行ってみようぜ」

飯塚主任はよほどその店に行きたいらしい。

「大阪に住んでる人のオススメの店なら行ってみたいですね」

逸樹がそう言うと、飯塚主任が笑いながら逸樹の肩をポンと叩いた。

「よし、決まりだな」




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