花盗人も罪になる
香織と円は会社の近くのイタリアンレストランで食事をしながら、白ワインを飲んで話していた。

「ところで……気になってたんだけど、円の好きな人って大阪に出張してる主任のうちの誰かなの?」

「気になってたの?」

「まぁ、少しね。円が不倫なんて変な気起こさなければいいなって」

大阪に出張している主任は3人とも既婚者で、3人とも背が高く見た目もかっこいいと思う。

円はその他にどんなことを言っていただろう?

「少しずつ距離を縮めてるとこなんだけど、もう少ししたらちょっと仕掛けてみようかと思ってる」

「仕掛けるって……相手は既婚者なんでしょ?」

「そうだけど、それが何?」

円は悪びれもせず笑っている。

「ねぇ……前も言ったよね?円は良くても他の誰かが……」

「傷付くって言いたいの?」

こちらに向けられた円の射貫くような鋭い視線に、香織は背筋が寒くなるのを感じた。

「他の人を傷つけようが何しようが、奪ってでも私はその人が欲しいの」

円には香織の常識は通じないのかもしれない。

“女の敵は女”とはよく言ったものだ。

絶対に円を敵に回したくない。

「こんな気持ち、いい子の香織にはわからないでしょ?だから相手が誰かは教えない」

円の不倫を止めておきながら、大輔が好きなはずなのに既婚者の上司である逸樹の存在が気になっていることが香織は少し後ろめたかった。

「私は……いい子なんかじゃない……」

香織が思わず目をそらしてそう呟くと、円はグラスのワインを一口飲んで口元に笑みを浮かべた。

「念のため言っておくけど、邪魔だけはしないでね?」





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