花盗人も罪になる
そんなことをぼんやり考えているとスマホの着信音が鳴った。

紫恵は画面に映る“いっくん”の文字を見て、嬉しそうに通話ボタンをタップした。

「いっくん、お疲れ様」

「しーちゃんもお疲れ様」

逸樹の優しい声を聞くと、すぐそばにいるようで安心する。

「今日の昼お好み焼き食べたよ。普通のおばちゃんがやってる小さい店でね」

「やっぱり大阪のお好み焼きは美味しいの?」

「うん、めちゃくちゃ美味しかった! しーちゃんにも食べさせてあげたかったな」

「いいなぁ、私も食べてみたい」

「今度二人でね。今日は写真で我慢して。あとで送るから」

ほんのわずかな時間、他愛ない話をした。

おやすみの挨拶をして電話を切ると、ほどなくして紫恵のスマホにメールが届いた。

さっき逸樹が美味しかったと言っていたお好み焼きの他に、電車の窓から見えた大阪城、大阪らしい面白い看板などの画像も送られてきた。

中には宿泊先と思われるホテルの部屋で同僚と一緒に写っているものもある。

疑っているわけではないが、逸樹は今、間違いなく同僚と一緒に大阪にいる。

もしかしたら、不安にならないように気を遣ってくれたのかもと紫恵は思う。

逸樹は他の誰よりも紫恵には特別優しい。

どこにいても、やっぱり逸樹は紫恵の大好きな逸樹だ。



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